VINDA憲章

The Constitutional Foundation of Five-Realm Harmony

憲章について

VINDA憲章は、G.E.122年に五勢力によって制定された、新世界の平和と共存を定めた根本的な統治憲章である。四界大戦の教訓を基に、異なる理念の共存という困難な課題に対する一つの解答として起草された。この憲章は五つの章から構成され、それぞれが五原理(実存・幻想・終末・神性・均衡)の関係性と相互尊重の理念を体現している。

第一章:創端(Sermo Primus)

五原理の紹介と世界の名前

"五原理が交わりしとき、世界は名を得た。
かくして〈ヴィンダ〉は、終焉なき調和の夢を掲げる。"

Veritas は語る

「我は現に在り。欺くな、虚ろなる影を。実在の軸を揺るがせるなかれ。」

Illusio は囁く

「我は揺らぎ。色なきものに彩を与え、死せる理に生命を注ぐ。」

Nihilum は沈黙する

「我は眠る。終わりを与えし者として、雄弁に沈黙する。」

Divinitas は祈る

「我は恩寵と罰の調律者なり。然れど、我を動かすは選びし意志なり。」

Aequitas は観測する

「我は量る。天秤は傾けど、均衡は崩さず。五つの柱が寄りてこそ、世界は転ばぬ。」

されば此処に記す。
ヴィンダとは、対立せし理念が平和のもとに呼吸を合わせた器。
剣は鞘に、幻は霧の中に、信仰は胸の内に身を置く。

されど平和は不動にあらず。
五原理は今も脈打ち、争いの種子は乾ききらぬ大地に眠る。

それでもなお、我らは誓う。

「我らヴィンダの民は、分断の記憶を受け入れ、調和の夢に向かって歩む。」
「平和は夢かもしれぬ。だが、それを信じる意志こそが、この世界を明日へと繋げる。」

第二章:均衡の契り(Pactum Aequilibrii)

五原理の相互依存と協力の原則

「力は相克を生み、意志は裂け、境界は消失する。」
されど五原理は知った。
分断を越えねば、この顕現世界[バウンディ]そのものが崩壊することを。

第一節:存在は孤立に耐えぬ

De solitudine Veritatis

Veritas は、孤なる正しさを掲げた。正しきことのみを束ねた国家は、やがて他者を否定する。実存は他を鏡に映してこそ、真の意味を持つ。

されば、存在は他の原理に耳を傾けねばならぬ。

第二節:幻想は輪郭を求む

De limite Illusionis

Illusio は、境界なき創造を繰り返した。その果てに、自己と他者の区別が溶けた。幻想は支えなければ、夢に沈む。存在に寄り添わねば、虚無に堕ちる。

第三節:終末は始まりの器

De nihilo germinante

Nihilum は語らぬが、示す。滅びは恐怖にあらず、再誕の場である。破壊なくして更新はなく、循環なき世界は腐敗する。

此度Nihilumに与えられた眠りは、絶息ではなく、微睡みにすぎない。

終末が目覚めるとき、それを拒まず、受け入れ、乗り越えること。それこそが、命を再び燃やす火となる。

第四節:神性は高みに在るに非ず

De humilitate Divinitatis

Divinitas は、己を高みに置いた。が、その傲慢は戦乱を招き、祝福は呪詛へと転じた。神性とは支配に非ず。指針であり、赦しであり、祈りである。

地に降りよ、神よ。共に歩む存在となれ。

第五節:均衡こそが真の信仰

De fide Aequitatis

Aequitas は量った。剣と書、火と水、声と沈黙を。秤が揺れても、芯が折れねば世界は保たれる。五原理が互いを見つめ、干渉を恐れぬとき、初めて真の均衡が生まれる。

これら五つの誓いをもって、ヴィンダの基礎とする。
力は交差し、意志は重なり、輪郭は溶け合い、神性は共に在り、均衡は宿る。

これを我らは〈均衡の契り〉と呼ぶ。

「我らは異なり、ゆえに隣り合う。」
「統一に非ず。共存にこそ、ヴィンダの魂はある。」

第三章:忘却の灯(Lumen Oblivionis)

戦争の記憶と向き合う方法

「戦火は静まれど、灰はなお風に舞う。」
過去は地に伏し、名を伏せ、目を閉じて横たわっている。
されど、その眠りは浅い。

第一節:記憶は火である

De memoria flammae

記憶は力なり。燃やせば熱となり、照らせば灯となる。だが、過ぎれば焼き尽くす炎ともなる。

四界大戦の記録は、真実であると同時に、憎しみの種でもある。

我らは決議する。
「記録を封じることなかれ。ただし、雨露に晒すことなかれ。」

記録は保管される。選ばれし者のもとに。それは過去の責め苦にして、未来への警鐘。

第二節:赦しは記憶に宿る

De indulgentia memorata

忘れることは赦すことに非ず。赦しは、記憶の上に築かれるもの。

ヴィンダは赦しを命じぬ。ただ、記憶と共に歩むことを選ぶ。

「各原理は自らの罪を抱えたまま、他者の傷に手を伸ばせ。」

第三節:記録せられし戦争

De bello memorato

語られぬとは、なかったことにすることではない。それは、重荷を共有する沈黙である。

語りすぎれば毒となり、語らねば幻想となる。ならば、語り合わぬ中で"灯火"だけを残すのだ。

「すべての首都に、一つの火が灯される。その火は語らず、ただ揺れ続ける。それこそが、ヴィンダにおける戦争の記憶である。」

第四節:息絶えし者たちへの誓い

De juramento dormientibus

未だ名も与えられぬ犠牲者がいる。墓標なき死が、名もなき祈りが、地に染みている。

ヴィンダは彼らを英雄と呼ばぬ。神とも、敵とも、敗者とも呼ばぬ。

ただし、一つだけ誓う。

「彼らの魂を二度と乱さぬこと。」
「そして同じ過ちを、二度と世界にもたらさぬこと。」

これらをもって、第三の誓約とする。

「記憶せよ、しかし喰らうなかれ。
語るな、しかし見失うなかれ。
灯せ、されど燃やすなかれ。」

第四章:主なき地の誓い(Ius Terrae Vacantis)

未統治地域と例外的存在への対応

「ヴィンダの光が届かぬ地にも、世界は息づく。」
法なき場所は虚無に非ず。そこには、また別の理がある。
だがその理が世界を蝕むとき、ヴィンダは沈黙せぬ。

第一節:地図になき地に法を

De lege invisibilis

ヴィンダの地図に描かれぬ地。名前なき村、記録なき実験区、そして、制御なきゲウダたち。

だが、名がなければ、そこに住まう者の権利もまた霧散する。

ヴィンダは宣言する。

「全ての存在に対し、最小限の庇護と最大限の観察を保障する。」

それは支配に非ず。それは干渉に非ず。それは、沈黙の契約(Silentium Pactum)である。

第二節:拒まれし者たちの座標

De exiliatis localibus

主なき者、拒まれし者、分類不能な存在。彼らは世界の"余白"に生きている。

ヴィンダはこれを放逐と呼ばず、可能性の余地と呼ぶ。

「いかなる者も、第二の選択肢を与えられる。」
それは "許容"ではなく、"理解の努力" に他ならぬ。

第三節:終末因子に関する黙契

De factoribus terminis

一部のゲウダ、およびNihilumと呼ばれる原理の実体は、すでに言語・思想・生命を超えて存在している。

彼らは、理解も共存も不可能であるかに思われる。

されどヴィンダは信じる。

「理解不能は排除の理由にならず、不定形は暴力の根拠にはならぬ。」

よってヴィンダは、其の者たちに『永遠の微睡み』を協力の元で与え続けながら、Nihilum勢力との交信努力を惜しまないことをここに誓う。それが、この世界における倫理の最終防衛線である。

第四節:人知れぬ灯を守る者

De custode ignis

未登録の存在を追い払うのではなく、見守る者が必要である。

其の者たちをを「隠密評議官(Custodes Silentii)」と呼ぶ。世界の"目が向かない場所"に、灯火を絶やさぬよう動く者たちである。

これらをもって、第四の誓約とする。

「地図は描かれねばならない。だが、白地に踏み込むことは慎重であれ。
孤独な存在にも、世界の一滴としての価値がある。
ヴィンダは全てを包むものではない。
だが、全てに耳を澄ます意志を持つ。」

第五章:構造の誓約(Structura Pacta)

VINDA統治体制の具体的構造

「理念なき構造は空虚であり、構造なき理念は暴走する。」
よって我らは、五原理に基づき、この連邦の骨を刻む。

第一節:五座の均衡(De Quinque Sedibus)

ヴィンダは五原理をもって成立する。さればその統治は、五座の議(ござのぎ)によって行われる。

実存
ヴェリタス(Veritas)
法と現実を司る、根幹の判断機構
幻想
イリュージョ(Illusio)
文化・思想・創造を司る、民意の声
終末
ニヒラム(Nihilum)
危機管理と抑制、終末因子の観測
神団
ディヴィニタス(Divinitas)
儀礼・信仰・精神構造の均衡
中立・中庸
アエキタス(Aequitas)
各座の対立を中庸に保つ調停役

五座は合議の形式を取り、いかなる決議も三票を必要とする。ただし、アエキタスは他の四座の対立時に限り二票分の重みを持ち、三票同士の場合はその案の決議を延長とする。

「力は並び、理は重ならねば、秩序は生まれぬ。」

第二節:下層環(Orbis Inferioris)

五座の下に、多層的な自治構造が存在する。

  • 行政体 ロカリウム(Locarium):地理単位での統治区画(旧国家・旧界の再編)
  • 執行体 アクトゥス(Actus):政策単位の実行機関。軍や終末対応など任務別に設置。

これらは五座に直属せず、独立した諮問連関体として互いを監視する。

「命じるな、連帯せよ。」

第三節:無籍の席(Sedes Vacua)

ただし、五座には第六の空席 セデス・ヴァキュア(Sedes Vacua)が常に存在する。

それは「いずれの原理にも帰属しない者」のために空けられた象徴である。

  • 特例的に中立の枠から代表が臨時で座すこともあれば、
  • まったくの無所属GEUDAや未知の存在が現れたとき、
  • あるいは未来において第六の原理が現れたとき、

その席が与えられる。

「それは未来のための余白である。」

第四節:遷座と喪失(De Translatione et Amissione)

いずれの座においても、原理協調に反した行為を行った座はその権利を喪失する。

この喪失協議は、その座を除いた全座の同意、および客観性に基づいた原理協調に反した行為の証拠が必要である。

第五節:静寂なる監視(Custodia Tacita)

ヴィンダの構造は、完全ではない。されば、常にそれを見守る者が必要である。

これを『観測者 オブザーバーター』と呼び、各原理より一名の選出を義務とする。彼らは語らず、記録のみをする存在である。

ただし、一つの提示案に対して五原理すべての観測者の同意がある場合、この案はConscient Pactum(コンシエント・パクトゥム)と呼ばれ、全席は耳を傾け、その合議に注力しなければならない。

「構造の欠陥を恐れるな。それを覆い隠す沈黙こそが最も危うい。」

これらをもって、第五の誓約とする。

「秩序は完全を求めぬ。ただし、正しさを忘れてはならない。五原理が交わる限り、ヴィンダは脈動し続ける。その脈動こそが、構造の命である。」

憲章の意義と影響

VINDA憲章は、単なる政治的文書を超えた哲学的宣言でもある。この憲章が示すのは、完全な統一ではなく「違いを認めた上での共存」という新しい秩序の可能性である。四界大戦の惨禍から学んだ教訓は、異なる理念同士が相互に依存し合うことで、より強固で柔軟な社会システムを構築できるということであった。

政治的影響

五座議会システムにより、どの勢力も単独で決定権を握ることができない構造を確立。権力の分散と相互監視により、独裁を防止している。

文化的影響

各勢力の文化的独自性を維持しながら、相互交流を促進。「忘却の灯」の概念は、過去の過ちを忘れずに未来を築く新しい記憶の在り方を提示している。

「我らは異なり、ゆえに隣り合う。統一に非ず。共存にこそ、ヴィンダの魂はある。」

- VINDA憲章第二章「均衡の契り」より